文化の達人から聞く、小坂の魅力。
日本で唯一の貴重な建造物、飛騨小坂駅を後世に残したい。 田立泰彦さん

(1)他には見られない作りの飛騨小坂駅

 2011年4月1日、ついに飛騨小坂駅も駅員のいない無人駅となってしまいました。時代の流れとはいえ、さみしい限りです。

 高山本線は岐阜駅から富山駅まで、岐阜県を縦貫する226kmの鉄路ですが、そのほぼ中間にある飛騨小坂駅は、昭和8(1933)年8月に開通しております。
 当時、鉄道省によって駅舎の標準設計というものが作られており、「駅舎はこういう形にしなさい」と、法によって決められていたんです。当然、その方が安価にできますから。
 ただし、立地条件など特殊な事情がある場合、別設計が許されることがあって、小坂駅もそれに当たったわけです。
 外観は山小屋風の杉丸太づくり。内部の腰壁板張りは釿(ちょうな)けずりを模した手の込んだ細工。天井の四隅にはめ込まれた白樺は今でも損傷なく役目を果たしているし、白樺の額縁に収まった右書きの駅名板も開業当時のまま。乗降客のための地下道の設置も、高山線では飛騨小坂駅と、他には高山駅との2つのみ。ホームにある待合室も本屋と同じ杉丸太造り。御嶽登山口のある材木の町ということからこうした設計になったと考えられ、建設当時から大変な話題となりました。
 小坂駅は1933年の開業ですから、2013年には80歳ですよ。立派なもんです。まぁ、補修工事は時々やりますけど、使われている木などは当時のまま、簡単には傷まないし、コンクリートなんかより木の方が、部分的に修復できるという強みがあります。
 現在、日本全国に駅舎がいくつあると思いますか? JRと私鉄を含めて、ざっと9,000あります。しかし飛騨小坂駅のような形態はもう、日本で唯一。これは声を大にして言いますが、どこを探してもふたつとありません。それだけ価値が高い建造物なのです。

(2)小坂駅を登録有形文化財に

 そのように立派で貴重な駅舎が、無人駅になれば、もしかして取り壊されてしまうかもしれない。私はかねてからそんな心配をしておりました。そこで、「それを避けるためには有形文化財に登録するという方法もある、そういう方法も考えながら、この貴重な建物を残すべく、みんなで協力していきませんか」という提言をしてきたのです。

 飛騨小坂駅はたまたま「中部の駅百選」に指定されておりますが、これは独自の審議会で決められたものです。そういう形ではなく、法に基づき国の機関にきちんと認定してもらえば、駅舎として、恐らく全国的に知名度が上がると思います。
 文化財保護法が改正され、文化財登録制度が創設されたのが1996年。以来15年ほどが過ぎましたが、現在、駅舎として登録有形文化財に指定されているのは全国で12駅。
 日本全国に9,000の駅がある中から有形文化財として登録されるということは、全国的に有名になること、全国区の存在になるということです。そうすれば、わざわざ遠くから訪ねてきてくれる人も増えるんじゃないか、この駅舎の価値をもっと広く世の中に知ってもらえるんじゃないか、私はそう思うんですね。

 昨年の4月に、18日ほどかけて、車に寝泊まりしながら九州をまわり、いろんな駅を見てきました。熊本から鹿児島に渡る肥薩線に嘉例川(かれいがわ)駅と大隅横川(おおすみよこがわ)駅というのがありまして、明治時代に建てられた木造駅舎、それが登録有形文化財に認定されています。しかしそれらと比べても小坂駅はひけをとらない、むしろ小坂の方がユニークだし、おもしろい。それらの駅を見て、私は小坂駅が有形文化財に登録されることは夢でないと確信しました。

 また、北海道の無人駅も見てまわりました。釧網本線の北浜駅は、オホーツク海に一番近い駅と言われています。駅舎内では、かつての駅事務室を改装した喫茶店「停車場」が営業しており、店内からオホーツク海を眺めることができます。冬は流氷見学のお客さんが大勢いるから、それで商売ができている。古い駅舎でも、そういう使われ方をしておるケースは多々見られるのです。同じく無人駅ですが、原生花園駅もトロッコ食堂があって、止別駅には行列のできる「ラーメン喫茶えきばしゃ」がある。せっかくだから並んで待って食べたところ、味はちょっと…(笑)。だけど、マスコミで紹介されたりクチコミによって、人が集まってくる。小坂も、そういう方策も含めて考えていかねばならんでしょうね。

(3)地元のみなさんと共に行動を起こそう

 いずれにしても、私一人で考えていてもしょうがない。北條さんが教育委員会で話をしたり、下呂市の助役さんにも会いまして、「小坂駅を残してほしい」というお願いをしましたが、「駅舎は鉄道会社の持ちものだから、JR東海を動かすためには地元の人の熱意を示してほしい」ということで、それは分からんでもない、だったらどうしようかというのが眼目なのです。
 小坂駅を登録申請するとなると、JR東海としても初めての経験だということもありますし、私たちも慎重に事を進めていかねばならんと思っております。 そのためにも、まずは地元の皆さんに、身近にこのような遺産があるということを知っていただきたい。あまりにも見慣れていて、ついその良さを見過ごしてしまっているかもしれないから。

 小坂駅は無人になってしまいましたが、僕の家内が「花をいけたらどうか」ということを言ってくれて。それも勝手にやってはいかんだろうと思い、無人化後の小坂駅を管理している下呂駅に連絡を取って了解してもらって。
 今では、近所のおばさん方も進んで協力してくださるようになって、花が置いてあります。ありがたいことですし、なるべく続けられるようにしたいと思っております。
 それから、2011年7月から「駅日記」といって、駅舎にノートとボールペンを置いておったら、旅の人がけっこう書いておられるんです。「青春18切符で来ました」とか、「滝を見たし温泉も入ったし、良かった」とか、「小坂駅が無人駅だと初めて知りました」とか、年配から若い人までの声をいろいろと聞かせてもらうことができます。
 他にも「ミニギャラリー」として場所を借りて、小坂保育園の子どもたちの絵を掲示するようになったし、同様の試みを小学校にもお願いしています。

 どうにかして飛騨小坂の駅舎を後世に残したい、その思いだけで「飛騨小坂駅友の会」を設立し、有形文化財に登録してもらうための署名活動もしました。そういう行動を起こすだけでも、皆が関心を持ってくれるんじゃないかと。
 まずは、地元の皆さんを巻き込むことから始めていこうと思っています。

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