自然の達人から聞く、小坂の魅力。
「人と森との関わり」を通じて、地域の“なりわい”をデザインしていく。 伊藤 栄一さん

(1)環境教育の大きな役割

環境教育の大きな役割  もともとは、岐阜大学の本体のほうで9年間、農学部の助手をしておりました。平成8年に、大学から「演習林の専任教官」になるよう言われまして、こちらに参りました。以来17年、ずっと萩原に住んでいます。
 演習林には、自分がまだ岐阜大学の学生だった時代、昭和55年くらいかな、そのころから通っているから、足掛け30年にもなりますか。こちらに赴任してからも7年くらいは携わっていたことになりますが、大学は9年前に辞めています。

 いま力を入れている活動のひとつは、環境教育ですね。その一環として間伐体験をやったりとか。
 これは実際に自分の経験から思うことなのですが…。僕は名古屋で育って、「自然」への興味って、どちらかと言えば“知識”から入ったんですよ。いろんなことを知識として知ってはいるけど、では実際に触ったことがあるか、匂いを嗅いだことがあるかというと、そうではないっていう…。
 例えば、子どもたちもそうなんですよ。ダンゴムシって比較的、誰でも触れるんだけど、ではヤスデはどうかっていうと、みんな気持ち悪がって触らない。でもよく見ると、ダンゴムシとヤスデって形状は一緒。違いは長いか短いかっていうだけで、「よく見てみ、ダンコムシと一緒やろ」っていうと、何人かは触れるようになるんです。誰かが楽しそうに触るのを見ると、それまで「エーッ」とか言ってた子も興味を持ってきたり。自分としても、やってて思うのは、そんなところがすっごくおもしろくてね。

環境教育の大きな役割  今は、田舎の子どもたちでもそんな感じのような気がしますね。もっと身近なところで自然を実感できることが大事で、そうしないと、頭だけで「自然とはこういうものだ」って囲ってしまって、分かった気になって終わってしまう。それではおかしい、それでは生きていけない。もう少し、「自分と自然との繋がりを実感できるようにしたい」っていうのはありますね。
 特に、「地域の子どもたちと山に行く」っていうのは、ひとつには「自分の身近にある環境についてもっと知ってほしい」ってこともあるし、ふだんの日常の中で目にしている風景の、その奥にある深いストーリーを知ってもらうことで「地域に誇りを持ってほしい」ってこともあるんですよ。

 というわけで、ベースラインには「子どもたちと一緒に山に行って、森の生きものと触れ合う」ということが活動の中心になってます。あとはそれぞれの団体さんに応じて、例えば学校だったら「教科書でこういうことをやっているので、それに沿ってこんなことをしてください」とか、「クラフトをやらせたい」とか、そういったご要望をお聞きしながら、こちらの能力とうまく掛け合わせ、対応していくことにしています。
 ですから、最初から「こんなメニューをやりますよ」ってピシッと決めずにいるんですよね。もちろん、選択肢としていくつかご用意はしておきますが、最終的には相手とのご相談の上でプログラムを作る形にしています。
 こちらから積極的に営業をしているわけではないですが、一度いっしょにやらせていただいた先生からクチコミで広がっていったり、そういうことで少しずつ広がってきていますね。

(2)薪ストーブ商品化の意図

薪ストーブ商品化の意図  飛騨小坂ビジターセンターに置いてあるストーブ、もともとあれは長野県の茅野市で「カラマツを燃やそう」っていう主旨で考案した「信州カラマツストーブ」の飛騨版なんです。
 今、下呂は針葉樹の割合が面積の65%くらい。萩原では75%くらいあると思う。
 広葉樹の薪だと燃焼温度はおそらく600~700度といったところですが、針葉樹、中でもカラマツだと1000度くらいまでいっちゃうんです。鋳物のストーブではそこまでの対応を考えていなくて、鋳物の質にもよるみたいですけど、高温になったり温度が下がったりを繰り返すと歪みやヒビが生じる可能性があると言われています。それともうひとつ、針葉樹を不完全燃焼させると煙道内にタールや煤がたまって、それが煙道火災の原因になりやすいんです。そのため、一般的には「針葉樹の薪は使わないほうがいい」って言われていますね。でも、このストーブなら、針葉樹薪の問題点をそれなりに克服できるんです。
 ただ、間伐材の利用方法として、燃料としての活用もひとつの方法論ではあるけれど、必ずしもベストとは思ってなくて、どうせならもっと形として残っていく使い方ができないかとも思うんだけど…。まぁ、何にも使わずに山に捨てっぱなしというのでは話にならないので、多少なりとも山元にお金が還元できる仕組み、そのひとつとしての燃料活用も注目していいんじゃないかな。

 福島の原発事故以来、バイオマスエネルギーが脚光を浴びているので、いま、薪ストーブの需要は伸びていると言われています。薪の供給の仕組みがまだ十分に出来ているわけではないですが、いくつかは企業的な動きが見られるようになってきて、薪も徐々に流通するようにはなってきましたね。
 「森のなりわい研究所」では、それを大きく流通させるっていうよりは、薪を媒介にして、川下の人たちが山と繋がる、たとえば自分で使う薪は自分で取りに行くとか、そういうことでこっちに来てもらって、お金を落としたり、繋がりをつくったりと、薪を媒介にしたコミュニティーづくり、そんな仕組みが出来ないかなって思ってます。
 そんな仕事はNPOの出番じゃないかと思っていますし、そういった小さな繋がりがいっぱい出来ていくようなことを、僕はやっていきたいですね。これを企業的な活動にしようと思うと、いかに大規模に収穫して、いかに効率的に配達するかっていう仕組みを考えざるをえない。もちろんそれもひとつの考え方だし、今の社会では正解かもしれませんが、お金を介してシステマチックに動く仕組みではなくって、商品の背景にあるいろいろなストーリーを共有しながら利益を分かち合うような関係づくりのほうが、山村にとって意味があるし、何よりおもしろいと考えています。
 大きな産業にはならないかもしれないけど、小さくてもいいので、その地域全体を支えるたくさんの方法論をもっている地域が強いと思っていて、そんな方法論のひとつになれればいいかなって。

環境教育の大きな役割  このあたりでは、薪を「買う」っていう意識はほとんどなくて、知り合いからもらってくるとか、製材くずを使っている人が多いんじゃないかな。使用目的が「暖をとる」っていう実用的なところにあるから、そこにコストを掛けたくないという気持ちは当然あると思いますよ。
 でも、まちの人たちは薪ストーブに対して、「炎を見るのが楽しいね、ホッとするね」という遊びごころ、あるいはノスタルジーだったり、「地球温暖化防止」みたいな理想を自分なりに実行する手法と考えている人が多い気がします。そこは田舎とまちの価値観の違いだと思うんですけどね。
 このあたりの薪利用は、普通の暮らしの中の日常利用なんだけど、都市部だと「家の中にある非日常」なんでしょうね。だから、お父さんだけが楽しんでいるっていうこともよくあるようだけど。

 そういうものだから、実用品としてバンバン売っていくというよりは、山を維持していくための背景としての経済行為みたいなストーリーが見える商品、そういう意味での商品化が必要ですね。「それを売ることで利益がなんぼ上がるか」という利潤追求的なところに焦点をおくのではなく、多少なりとも「地域社会が潤ったり、地域の山がより健在な状態になる」というような、「一種の社会問題を解決するといった性格のある繋がりの中で、地域社会が経済的にも潤う」といような話ができる仕組みの方が、心ある消費者っていうか、特定の消費者に売りやすい気がする。「安く、便利に」ってことではない価値観の部分、そこに対する提案をしていきたいっていう思いが強いですね。

 実は、最初にお話しした「環境学習」ね、そのねらいのひとつとして、「今の消費社会と自然との繋がり」の中で自分はどういう選択、行動をとるべきか、それが判断できる人間を育てる。そんな教育につながっていけばという思いもあるんですね。
 将来、「同じ値段か、ちょっと高いくらいなら、地元のもの、身近なもの、自然に優しいモノを買おう」といった選択、消費行動をとる、あえて「賢明な消費者」と言わせてもらいますが、そういう人間に育つには、子どものころから「自然や地域社会の中の自分」という意識を形成していってほしいという思いがあって、それこそが環境教育のひとつの大きな役割だと思うんです。
 でも、そんなことを最初からストレートには言えないでしょ。だから僕たちとしては、とにかく山に入ること、カタいことを抜きにして、山を楽しんでくるとか、山で遊んでくるとか、「こんなとこに、こんな生きものがいるやんか~、どうや、触ってみるか~」っていう話を、やってきたいと思ってるんです。

(4)さまざまな活動について

さまざまな活動について  僕は、自分で事業を興してガンガンやってくっていうよりは、事業を興すエネルギーのある人を支援するような仕事がしたいと思ってます。ちょっと姑息かな(笑)。目指すのは「ローカルシンクタンク」のようなモノをつくっていきたいと思っています。
 そんな旗を掲げていると、いろいろなところから話をもらったりするけれど、今のところどれも、そんなにお金になる話ではないですよ。だけど、面白そうなことはあれもこれもやってみたくなる。で、声をかけられるとついつい出かけて行っちゃうので、落ち着いて、地に足がついた仕事が出来てないかも(笑)。遊んでるようにも見えるみたいで、ある知り合いからは「まるで高等遊民だな」って言われましたけどね。
 まぁ、奥さんは「好きなことをやりんさい」って言ってくれてるけど…「でも、もうちょっと稼いできてよ」とも(笑)。
 実際…まぁ、こういうことは言わなくてもいいのかもしれないけど、大学勤務のころに比べて、すごく収入は落ちましたよ。大学にいた頃の知り合いなんかに会うと、「どうなったかと思ってたけど、いきいきやってるね、楽しそうじゃん」って言ってくれるけど、うちの奥さんは「楽しそうにしてると貧乏してるってことが伝わらないから、もっと苦しそうな顔しないと」なんて言いますけど(笑)。

 それと、自分の仕事が何かとか、自分が「何者です」ってことを言わなくてはならない場面があるじゃないですか。なんて言ったらしっくりくるかって、大学勤務を辞めて以来、ずーっと悩んでいて、答えが出ないんです。
 たとえば、「私、林業やってます」とか…。一時期「森林計画家」って言っていたけど、どうもしっくりこなくて…。「森のなりわい研究所」を英訳して「フォレスト・ライフ・デザイン・ラボラトリー」って呼んでいるので、「フォレスト・ライフ・デザイナー」っていう呼称もアリかもしれないですね。直訳すると「生活デザイン」ってことになるけれど、「ライフ」は「なりわい」だから、「フォレスト・ライフ・デザイン」は、「地域設計や地域計画を含めたデザイン」ってことにしています。
 でもね、最後には、肩書きも何もない自分の名前だけが書いてある名刺でも通用するようになれるといいなと思ってます。

(5)「人と森との関係」から地域に発信する

「人と森との関係」から地域に発信する  今後、何処でどんな仕事をするかしっかり決めているわけではないんですけど、この地域のことはずっと見続けていきたいと思っているし、それは僕なりの責任でもあるとも思っている。ただ、あまり囚われすぎることなく、いろんなシチュエーションの中で、自分の持っている能力をどう当てはめていけるかということを考えながら、口を出していこうと思っています。
 基本的には「人と森との関係」。そこから発信するべきいろんなことが出てくると思っています。

 「森林のエネルギーで町を循環させるのは、小坂の規模だったら可能なんじゃないか」って提言もあるんですよ。地域再生機構っていうNPO法人が入って、バイオマスエネルギーの勉強会をずっとやっていただいたんです。
 その中で、例えば、「下呂の原木市場で集まってきた材料でバイオマス発電をやろう」とか、「しみずの湯とデイサービスをセットにして、薪でエネルギーを供給しよう」とか、それで「いくらか山にお金を還元していこう」っていう仕組み、シミュレーションモデルはいくつか考えているんです。
「人と森との関係」から地域に発信する  とは言っても、いわゆる一般経済モデル、事業モデルとはまた違うと考えていただけたらと思います。「プロフェッショナル、森林組合が伐採してきて、それを供給する」っていう話ではなくて、山主さんが自伐経営でやるという前提だから、まず人件費はすごく安く見積もってありますよ。山から「軽トラで運んできて、チェーンソーやら含めた燃料費を引いて、残ったお金で晩酌できる」って程度の中でやるとして、集荷する仕組みだけ作れば、それなりに、1立方メートルあたり数千円くらいの薪が作れる。それだと灯油とトントンになるから、「それなら使えますよね」っていうレベルの話ですけどね。

 「森なり」の活動は、取りあえずは活動の拠点を山之口(下呂市萩原町)に置いて定例化していこうと思っています。
 例えば、毎月一回くらい集まって、活動拠点の整備していくとか、観察会とか花見をしたりとか、まず自分が楽しむための企画に人をひきずりこむような感じでやっていきたくて。
 そのうち、集まってきてくれた人が主体的にまた別の何かを始めて、みたいな広がりが生まれてくるといいと思うんですよね。地元の人たちに向けても、「あそこ、いつも何か面白そうなことやってるぜ」っていう姿を見せていかなくてはいけないと思っています。
 一緒にやりません?

最近の活動の詳細、お問合せ先
>> 森のなりわい研究所

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